不動産賃貸契約の民法一部改正について
2020年4月1日から賃貸借契約に関する民法のルールが変わります。
改正前の民法では規定が設けられておらず、文言上は明確ではなかったものが明確化されることとなりました。
賃貸借に関する改正ポイントについてお案内しております。参考にしていただければ幸いです。
※参照:❐ 法務省資料(令和2年3月現在)
賃借物の修繕に関する要件の見直し
賃貸不動産が譲渡された場合のルールの明確化
賃借人の原状回復義務及び収去義務等の明確化
敷金に関するルールの明確化
賃貸借継続中のルール
賃借物の修繕に関する要件の見直し
以前は、どのような場合に賃借人が自分で修繕をすることができるのかを定めた規定はありませんでした。
改正後の民法
次のいずれかの場合には賃借人が賃借物を修繕することができるようになりました。
@賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知したか、又は、 賃貸人がその旨を知ったのに、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき
A急迫の事情があるとき(雨漏りをしているが、台風が接近している等)
賃借人が賃借物を修繕したとしても、 賃貸人から責任を追及されることはありません。
賃貸不動産が譲渡された場合
建物等の賃貸借契約が続いている間に建物の所有者が代わった場合です。
新所有者は賃借人に賃料を請求できるのか、賃借人は誰に賃料の支払いをすればよいか等の問題がありました。
改正後の民法
賃貸人としての地位は、原則として不動産の譲受人(新たな所有者)に移転します。
また、不動産の譲受人(新たな所有者)が、賃借人に対して賃料を請求するためには、貸借物である不動産の所有権移転登記が必要となります。
賃貸借終了時のルール
賃借人の原状回復義務及び収去義務等の明確化
原状回復義務とは、退去時に賃借物を契約締結時の状態に戻して貸主に返還する義務のことです。
改正後の民法
不動産賃貸借契約が終了したときに、賃借人は物件の損傷について原状回復義務を負わなければなりません。
しかし、通常損耗や経年変化については原状回復義務を負わないことが法律上明確になりました。
経年劣化にあたる例 |
経年劣化にあたらない例 |
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・家具の設置による床、カーペットのへこみ、設置跡 |
・引っ越し作業で生じたひっかきキズ |
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敷金に関するルールの明確化
敷金とは、退去時の原状回復や、万一の家賃滞納に備えて「大家さんに預けておくお金」です。敷金の定義や敷金返還請求権の発生時期についての規定はありませんでした。
改正後の民法
原則として、敷金は賃借人に返却しなければなりません。
ただし、返還する額は家賃の滞納分や賃借人が負担すべき原状回復費用を差し引いた残額となります。
※差引額が敷金より多い場合には返還はされません。
賃貸借契約により生ずる債務の保証に関するルール
家賃の滞納などに備え、賃貸借契約に保証人(個人)を求める場合、保証人が想定外の債務を負うことがありました。(例:賃借人の落ち度で借家が家事になってしまった場合の保証債務など)
改正後の民法
@極度額(上限額)の定めのない個人の根保証契約は無効となります。
A個人が保証人になる根保証契約について、下記の場合には、その後に発生する主債務は保証の対象外となります。
・ 債権者が保証人の財産について強制執行や担保権の実行を申し立てたとき
・ 保証人が破産手続開始の決定を受けたとき
・ 主債務者又は保証人が死亡したとき
設備の一部滅失による賃料減額の厳格化
不動産賃貸契約中に、その一部が滅失した場合や、使用・収益することができなくなった場合に、以前は賃借人は賃料の減額を請求することができました。
改正後の民法
賃借人が請求しなくても、賃料は当然に減額されることとなりました。
経過措置(いつから適用となるか??)
賃貸借や保証などの契約については、原則として施行日(令和2年4月1日)より前に締結された契約については改正前の民法が適用され、施行日後に締結された契約については改正後の新しい民法が適用されます。また、施工日後に、貸主・借主双方の合意のもと契約を更新した場合には、改正民法が適用されます。
※法務省資料をもとに作成
参照:❐ 法務省HP「民法の一部を改正する法律(債権法改正)について」(令和2年3月月現在)